以下のグラフは「勤務先を選ぶときにどの程度電子カルテを条件にしていますか?」
という調査結果です。 (2010年9月メドピアより)
結果をみると、「電子カルテはあれば良いが、なくても良い」という回答が圧倒的に多く、
「電子カルテは必須条件である」は少数派(7%)という結果となりました。
また、「電子カルテのない病院を選ぶ」という「反・電子カルテ派」は9%にも及びました。
この「反・電子カルテ派」の言い分は、「慣れるまでに時間がかかる」、「入力に時間がかかり、
患者さんと向き合う時間が少なくなる」というネガティブなものです。
その最大の原因は、各病院でシステムが統一化されていないことであり、
病院ごとに使い方が異なる点や、イラストが描きにくいといったデメリットが挙げられます。
電子カルテはあくまでも医療行為の道具であり、
電子カルテの導入そのものが目的化されることは本末転倒だといえます。
しかし、なぜここまで遅々として導入が進まないのでしょう?
そもそも、当初立てられた政府計画によると、
医療の質の向上と医療機関の経営効率化を実現するために、電子カルテの普及促進として、
「2006年度までに400床以上の病院及び全診療所のうち6割以上」の成果目標を掲げていました。
しかし、2006年度の400床以上の医療機関における電子カルテの導入実績は24%にとどまっており、
20床以上の病院の導入はわずか7.0%にすぎず、計画から大幅に遅滞しているのです。
一方、電カル機能の一部「オーダリング・システム」の普及率は、400床以上で73%(05年度)、
医事会計システムは、20床以上の病院で95%以上、クリニックでも75%以上に達しています。
レセプトオンライン請求が、11年度からクリニックを含めたすべての医療機関に義務づけられることが
背景にあったため、普及に拍車がかかったのでしょう。
このように、お金に関わることと、国から義務づけられた場合は、否応なく普及率が高まりますが、
「医療の質の向上」や「業務フロー改善による経営効率化」といった、目に見えない成果を追求した
システム化には、大きなコストはかけられないというのが現状ではないでしょうか。
このような現象は、何も医療機関に限ったことではありません。
実は一般企業においても、過去に同様の事が起こっています。
「システム化」による業務効率化というのは、事務方が真っ先に思い浮かべることです。
かつて一般企業においても、製造・仕入れ・営業・売上管理といったサプライチェーンを全て、
システムによる管理を徹底させようという試みがありました。
しかし、お客様と接する営業活動においては、システム管理が非常に難しいのです。
その主な理由は、営業マン毎に働き方が異なることと、営業マンが入力作業を嫌がることです。
営業マンと医師は全く異なる職業ですが、お客様(患者様)との接点という意味では近い部分もあります。
この顧客接点という立場の人たちは、顧客とのコミュニケーションを重要視します。
また、地域特性もあるため、仕事のやり方を統一化し、ルーチン化することを嫌がります。
システム化とは日頃の業務をシステムに肩代わりさせることなので、
できるだけその業務に携わる人たちの働き方に合わせて設計する必要があります。
ところが、システム屋はシステムに業務内容を合わせるよう言ってきます。
中小規模病院向けに、パッケージ化された激安システムも販売されているようですが、
個々の病院間には、地域特性や慣習的な違いがあり、完全なカスタマイズ化は難しいのです。
さらに、電子カルテの初期導入費には、1床あたり最低でも100万円が必要だとされています。
500床以上の大病院では15~20億円、クリニックにおいても1億数千万円もかかるのですが、
負担は全て医療機関に降りかかってきます。
電子カルテ導入により「売上」が増加するのであれば話は別ですが、逆のケースも想定されます。
例えば、紙カルテから電子カルテへの切換時に診療が混乱することも考えられますし、
電子カルテ化により、医師が入力作業に手間取って、診療できる患者の数が減る可能性もあるのです。
次に、いざ導入することが決まった際に、気を付けて欲しいことがあります。
それはシステム開発業者との付き合い方です。
一般的に医療機関にはシステム専門家はいません。
そのため、システム開発業者の営業を信じて、ぼられるケースが後を絶ちません。
そして、導入後にシステムトラブルが頻発し、業務に多大な損害を与えるケースもあるのです。
また、IT業界は建設業と似た構造があるため、発注者と業者との癒着や贈収賄の噂が絶えません。
発注側にあたる医局や医療事務責任者が、システム開発業者から接待漬けにされ、
粗悪なシステムを導入し私腹を肥やすことも多々見受けられます。
こうなってしまうと不幸なのは現場で、実際にそのシステムを使用する人間や患者様は被害者です。
このようなことにさせないためにも、システムに明るい事務方を雇用することは必要ですし、
システム開発はスモールスタートを前提に開発すべきです。
ちなみに、最近見た事例では、アイフォンのアプリを開発することで、
電子カルテに近い仕組みを構築している医療機関もありました。
また、入力の手間を減らすために、音声を録音することでログを残すケースもありました。
(タイピングの手間はかかりますが、医師の負担は軽減されます)
これからの時代は個々にシステムを開発することはコストに見合いません。
あらゆる知恵を駆使して、安く使い勝手の良いシステムを構築することが緊急課題といえるでしょう。
くれぐれも、電子カルテ導入ありきで物事を進めないように。。。