前回のブログで「モラルハザード」を回避するためには、絶妙なインセンティブ設計が必要だと書きましたが、
それは「信賞必罰」を絶妙に兼ね揃えたインセンティブのことです。
創業間もない新興企業や営業マンを多く抱える企業、外資系企業においては
インセンティブを多用しているケースを目にしますが、
インセンティブの設計で重要なのは、誰を対象とするかだと思います。
上記のようなイケイケの企業は、上位2割と下位2割を対象にしていることが多いと感じます。
2:6:2の法則により、上位の2割を競わせて業績を引っ張り上げるやり方と、
下位の2割を競わせて、業績のボトムアップをはかるやり方です。
前者の例としては、決まった金額以上の売上を上げた人には、
上振れした売上の何割かを報奨金として渡すというものです。
この手のインセンティブに当てはまるのは上位2割程度の優秀な社員となります。
そして、できる社員同士がライバル関係になるため、横の連携が取れずに機会損失が起こるでしょう。
逆に、後者の例として、営業成績の下位何%の人は賞与を出さないというケースがあります。
それに似たケースですが、今までで最も理不尽なインセンティブを見かけたのは、
入社間もない新入社員に名刺集め競争をさせ、下位の人は会社に留まることすらできないというものです。
その会社は大手人材会社でしたが、業績が思わしくなかったため、
入社早々、新入社員の大半が関連会社(人材とは全く関係のない会社)に出向することになっていました。
人材会社に残れる社員は一部であったため、その限られたポジションを名刺集め競争で競わせていたのです。
その競争でトップを勝ち取った新人女性のコメントが印象的な一言でした。
「わたしは絶対に○○○○には行きたくなかった!だから頑張りました!」
ちなみに、○○○○には出向先の関連企業の名前が入ります。。。
入社早々の競争に勝ち残ることで、
ようやく入社した会社の正社員になれたという、なんとも世知辛いケースでした。
このような理不尽な会社は、半永久的に競争させられるため、
ほとんどの人が2~3年で精神的に疲れて辞めてしまいます。
よって、社員の知的財産が企業内に蓄積されず、教育コストだけが莫大にかかるというスパイラルに陥ります。
これとは逆に、昔ながらの大企業は、2:6:2の真ん中の”6”にスポットを当てています。
その理由は、上位2割は放っておいても頑張り、下位2割はどんなインセンティブを設けても頑張れないからです。
(下位2割の人達は元々能力が劣っているケースが多く、決して手を抜いている訳ではないのです。)
そのため、最もシェアの高い6割の中間社員を頑張らせることに力を注ぐのです。
では、真ん中の6割の社員がどうすれば頑張って働いてくれるのか??
それは、下位2割にも優しく公平に接することです。
真ん中の6割の人間は、ひょっとすると下位2割に落ちてしまう可能性を感じているため、
下位2割がどのように扱われるかを常に気にしています。
要するに、自分に何かあった時のセーフティネットが整備されているかどうかを意識しているのです。
企業側が下位2割に対して手厚く接している企業の社員には安心感があります。
この安心感は、中間層が自発的に働くためのインセンティブとなります。
この現象について、不思議に思われるかもしれませんが、事実なのです。
企業が社員に自発的に働いてもらうためには、高額なインセンティブを支払ったり、
降格の危機にさらすようなプレッシャーをかけ続けるよりも、働きやすい環境を整備することが重要なのです。
企業と社員がお互いに「誠意」を示し合うことで協力関係が出来上がるのです。
これを経済学の用語で説明すると、相手と自己の利得を同じようにする「不平等回避」の行動です。
人間は自分だけが特別扱いされることよりも、他者と比較して公平に扱われることを望んでいます。
逆に考えると、公平に扱われさえすれば、人間は自発的に働くということです。
(社員間の競争を煽る必要など無いということです。)
この状況を夫婦間の関係に例えますと、夫婦間のルールを守った際に高級なプレゼントをあげるとか、
ルールを破った際に高い罰金を支払わされるといった刹那的なインセンティブは長期的には効果が無く、
お互いの公平性さえ保つことができれば夫婦関係は上手くいくということです。
要は、お互いを厳しくチェックしあうのではなく、許し合うことが重要だということです。
夫婦間の約束事やルールはお互いの「誠意」により成り立っています。
重要なのは、「許し合いの精神」です。
ちなみに、うちの妻は「誠意」よりも「高額なインセンティブ」が良いそうです(涙)