“断固たる決意”は難しい

先週、スイス国立銀行(ゴルゴ13の口座がある”スイス銀行”ではなくて、スイスの中央銀行)が、
あまりのスイスフラン高に対抗するために、ついに対ユーロ相場への上限設定を設ける声明を発表しました。
9月6日のことです。
これを受けて、スイスフランの対ユーロ相場は一時、前日比8.7%の急落。
ユーロを導入して以来最大の下落幅となりました。
これはユーロ/スイスフランの日足チャートですが、いちばん右側のところでぐんと跳ね上がっています。
ユーロから見ると、スイスフランに対して過去最大の上げ幅で上昇したということですね。
声明の内容は、思い切ったものでした。
「大幅で持続的なフラン安を目指す」
「即時実行で、ユーロについて1ユーロ=1.20フランを下回る為替レートを容認しない」
「この下限レートを断固たる決意をもって防衛する。無制限に外貨を購入する準備がある」
かつてなかったほどの強い姿勢を表すものとして、
世界のマーケットに与えるインパクトとしては十分、まさに”断固たる決意”が表れた声明です。
一方、その3日後の9月9日夜に日本の安住財務相も、G7の席上で円高懸念を表明する発言をします。
「為替市場の投機的な動きには断固たる措置を取る」
でもこれは為替相場にはこれといった影響はなかったようです。
同じ”断固たる”でも、安住さんの発言とスイス国立銀行の声明とでは、本気度のレベルが違うんですね。
スイスのほうは”1ユーロ=1.20フラン”と具体的な数字が入っていて、
しかも”無制限に外貨を購入する”と言い切っています。
これは本気だなということが、ビシビシと伝わってきます。
今後も継続的にスイスフラン安が実現するかどうかは、専門家の間でも見解が分かれているようですが、
少なくとも今の段階では、短期的なインパクトとしては十分大きなものだったといえるでしょう。
日本とスイスの我慢比べについては先月、スイスフランが最高値のときに触れました。
お互いに消去法で買われている国どうしですが、先にスイスのほうが断固たる決意を
世界に強くアピールしたということですね。
為替相場の表現というのは相対的なもので、
円高とか円安といってもそれは比較の基準をどこに置くかによって言い方が変わってきます。
たとえばいまは歴史的円高と言われていますが、もしこの後で60円台とか50円台とかになったりしたら、
本当の円高はこれからということになりますね。
後から振り返ると、2011年はまだ円安なほうだったということになるかもしれません。
じっさい、今は「とくに円高とはいえない」と興味深いことを言っている人がいて、
その人は『超整理法』で名を馳せた野口由紀雄氏(現職は早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問)。
野口氏によると、日米では物価上昇率に年3~4%の差があるので、
これを考慮に入れた実質レートを考えるならば、表面上の数字で年3~4%の円高になるのが当然、とのことです。
それで今は、円高というよりも「異常な円安の是正過程」なのだそうです。
つまり実質レートで比較するとちょっと前まで異常な円安が続いていたのが、
最近になってようやく実体に近づいてきたのが現状ということなんですね。
その考えによると、いくら介入したところでこの円高は続くのだそうです。
「日経ヴェリタス」8月28日付に載っていたこの記事を僕は目からウロコが落ちる思いで読んだのですが、
じゃあどこまで円高が進むのかと聞いてみたくなります。
でも「均衡水準がどこかをピンポイントで言うのは難しい」のだそうです…。
僕は思ったのですが、結局、どこに基準を置くかはその国の考え方しだい、ということなのでしょう。
そこから先は政治の話になります。
その意味でスイスは今回、自分たちの基準はここにあるのだということを世界に向けて明確に示したということです。
日本はまだそこまで踏み込んだ表明ができずにいるということではないでしょうか?
実際、スイスフランと日本円では世界経済に与える影響力が違いますし、
もし日本が同じような措置をとったとしたら、国内経済にもたらす弊害のほうが大きいという見方もあります。
タガを外されたような極端な円安に襲われて日本国債が暴落、するとパニックになる…とか。
このあたりは難しいところなのでしょうけど、僕は日本もこの”断固たる”決意を表明すべき時がいずれ来るような気がしますが、
そのときが来たとしても、いまの感じだとやっぱりグズグズしているうちに過ぎてしまうのかもしれませんね。
個人的には、僕の中での円高の限界水準は1ドル80円のラインでした。
僕は断固たる姿勢で臨んだのですが、一個人が断固たる態度を取ったところで、どうなるものでもないです。
そこを履き違えると、ただ損をするだけですので…。
※当ブログの目的は、投資に関する話題の提供であり、投資勧誘ではありません。
また、記載した情報はweb上で公開されているものですが、実際に投資される際には
あらためてご自身でご確認ください。
投資はあくまでもご自身の責任と判断でされるようお願い致します。