極端な言説に振り回されない

先週、個人向け国債の償還が大量に行われたそうです。
財務省が2006年の1月16日に”個人向け国債 固定5年”の第1回債を発行してから、ちょうど5年。
月日が経つのも早いものです。
利率は当時0.8%でしたから、購入した人からすると、
たとえば100万円預けていたおカネが満期になってざっと104万円。
定期預金が利息で殖えて返ってきたという感覚でしょうか。
償還金は今回だけでも約1兆円とのことで、
それが個人の口座に一気に振り込まれたわけです。
金融機関の人たちはこの資金を次の投資に振り向けてもらえるように、躍起になってるみたいですね。
そう言われてみれば、2006年当時はちょとした国債ブームと言ってもいいほどだったと思います。
低金利時代がすっかり定着して多くの人が定期預金で資産を増やすことをあきらめかけていたところに
それに代わる安全確実な新しい資産運用法として注目されていたような記憶があります。
国がやっているからリスクは低い、しかも定期預金よりも利率が良いということで人気が高まり、
多い時は1回あたりの販売額が、10年物も合わせると2兆円にも上っていました。
購入者層の中心は、やはり安全志向の強い高齢者だったといわれていますが
もしかしたら先生方の中でも、購入された方とかいらっしゃったんでしょうかね?
その国債も、ここ数年はめっきり人気が低迷しています。
上の表は固定5年の利率と販売額ですが、去年10月に発行された第20回債の販売額が403億円にまで落ち込んでいるのは、
ピーク時に1兆5964億円まで行ったのと比べると見る影もないですね。
まあそれも、利率が0.2%台ですからあまり見向きもされないわけで、
しかも国家の財政状況も危機的だということがだんだん知れ渡ってきて、
もはや以前のように低リスク商品の代名詞みたいには思えなくなってしまったというのもあるでしょう。
国債のリスクに関しては、最近あまり引き合いにされなくなったような気もしますが
代表的な格付け会社のムーディーズとS&P(スタンダード&プアーズ)による格付けを見てみましょうか。まずはムーディーズから。
次がS&Pです。
どちらも2002年から2007年の5年間を底にして格付けが落ち込み、いまははすこし持ち直しているのがわかりますね。
今回償還されるのはそのいちばん格付けの低かった2006年に発行されたものですから、
ムーディーズでは”A2″、S&Pだと、”AA-“だったときの国債ということです。
ちなみに両社の格付け基準も見ておきましょう。
ムーディーズでは”中級の上位”、S&Pでは”差は小さい”ながらも最上位ではなく、しかもそこにマイナス”-“がついているということで、
いずれにしてもまあ、当時の国債には、それなりにリスクはあったわけです。
逆に今はその時よりもリスクは低いということですが、とはいっても、0.37%というのでは、
やはり、あまり魅力を感じませんかね。
財務省も、去年から3年物を発行したり、今年7月からは10年物の利回りが上がるように算出方式を変更したりと、
いろいろ手を尽くしてはいるようですが、この程度の改善で個人の資産の流れが変わると思っている人は
専門家の中でもあまりいないようです。
思い起こすと国債がブームの時期には、その一方で、
国家財政が破たんして終戦直後のようなハイパーインフレが来るだとか、
そうなったら国債はただの紙屑になるとかいう説も飛び交ってました。
(たしかにそうしたリスクは、少ないとはいえ常に存在するわけですけど)
もしかしたらそれで不安になって国債の購入を見合わせたり、
代わりに別のリスク商品を購入して、結局損を出してしまったという人も、中にはいたりするのではないでしょうか?
そうなってしまうよりは、今回こうして無事に償還されたということですから、
0.8%程度の運用で十分という人にとっては、極端な言説に振り回されないのが正解だったことになりますかね。
まあ何はともあれ、無事に返ってきて良かったです…。
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