潔さ

ジョージ・ソロス氏が引退を表明したニュースが先週、世界中を駆け抜けました。
ソロス氏については以前、報酬額が世界2位のファンドマネージャーいうことで触れましたが
報酬額もさることながら、”国家に勝った投資家”(産経新聞)”投機の帝王”(東京新聞)といった
今回の記事で使われていた派手な異名のほうが、氏の存在感をよく表しています。
1992年のポンド危機では、必死でポンドを買い支えるイングランド銀行(イギリスの中央銀行)を相手に
ソロス氏は激しいポンド売りを行って勝利を収め、10億~20億ドル稼いだといわれています。
イギリスがユーロに加われないのは、実はこの時の敗北がいまだに尾を引いているからなんですね。
また、1997年には大量のタイバーツ売りを仕掛けてアジア通貨危機の口火を切り、
タイをIMFからの金融支援を受けざるを得ない状況へと追いやったのもソロス氏でした。
まさに、国家をも打ち負かす男。
そして自身の運営するファンドでは、ヘッジファンドという言葉すらなかった1960年代の終わりからずっと、
平均で年20%という驚異的なリターンを上げ続けてきたということです。
以前紹介した盟友のジム・ロジャーズ氏が”冒険投資家”としてタレント的な活躍をする一方で、
ソロス氏は独特の世界観や思想を書物で展開したり難解な相場理論を打ち立てたりと、一貫して硬派なイメージ。
実際、オックスフォード、イェールといった一流大学から名誉博士号を受けるといったアカデミックな顔も持っています。
それから、東欧やアフリカの民主化やエイズ対策などに強い関心を示して、
過去30年間でなんと総額80億ドルを超える寄付をしてきたというのですから、
慈善家としてもやることがケタ違いですね。
そのソロス氏は、引き際もあっさりとしています。
80歳という高齢も、もちろん理由のひとつでしょうけど、
表向きは米国で行われる金融規制改革が理由とのこと。
ある程度の資産規模をもつヘッジファンドが、顧客から預かった資金の運用を行う場合、
今後は米証券取引委員会(SEC)への登録が義務付けられ、取引の詳細な情報開示が求められるようになるということで、
そうした規制に縛られては思ったような運用ができなくなるとの判断なのでしょう。
ソロス氏の引退は金融界に大きな波紋を呼んでいて、
いまの金融市場があまりにも危険であるというメッセージだと受け止める人も多いように思います。
確かに、そのメッセージを発するために引き際のタイミングを探していたということなのかもしれません。
いずれにしても、とにかく壮大なる勝ち逃げであることは間違いないです。
この潔さ。やはり大物は違いますね。
僕は元ソフトバンク監督の王貞治氏が現役を引退したときの台詞を思い出しました。
「王貞治のバッティングができなくなった」
長嶋”ミスター”茂雄氏の名言「わが巨人軍は永久に不滅」があまりにも有名なので知る人ぞ知るという感じかもしれません。
でもこの去り際の美しさ、さすが”世界の王”じゃないでしょうか?
名を捨てて実を取るという言い方がありますが、
こういう、世界に名を残す人たちは、キレイに辞めることで名も捨てずに実を取る、
そのやり方を心得ています。
なんだか辞めるとか辞めないとか言ってるうちに、
名も捨てて実も取れないようなことになると、その先の展開は苦しくなりますね…。
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